新卒カード、正社員の肩書き、安定した将来。
私がそれら全てを手放したのは、新卒で入社して1ヶ月後のことでした。
「せめて3年は続けなさい」―呪いのように鎮座するこの言葉は、多くの新入社員の頭を幾度となく悩ませたことでしょう。
なぜ私は早々に逃げ出し、そして未経験からライターという道を選んだのか…。
これは、ブラック企業での挫折から始まり、自分らしい働き方を見つけるまでの“編集M誕生の記録”です。
毎朝、爆音のイエモンと共に出社していた22歳の春

通勤ラッシュのバイパス。真新しい車内で流れるのは、爆音のTHE YELLOW MONKEY。
鼓膜が震えるほどの爆音にしていないと、今にも足がすくんでアクセルを踏むことすら出来なくなってしまいそうだから。
バイパスを降りたら必ず流すのが「バラ色の日々」。
「追いかけても 追いかけても 逃げていく月のように 指と指の間をすり抜ける バラ色の日々よ」
「雨の中を何も見えずに走るのは 過去の悲しい思い出のように大事なような…」
大学時代は楽しかったとか、今辛いのは実は大事なことなんだとか、いろんなことを考えながら車を嫌々走らせて出社していました。
毎日起こるサザエさん症候群
日曜日の夕方になると憂鬱になる現象を、「サザエさん」の放送時間にかけて「サザエさん症候群」と呼びますが、当時の私にはそれが毎日訪れていました。
夜、ベッドに入ると「また明日が来てしまう」という恐怖で涙が止まらない。朝、目が覚めた瞬間に襲ってくる絶望感。
毎朝お弁当を作り、重い足を引きずりながら会社に向かっていたあの時の自分を抱きしめてあげたいです。
「3年は続けろ」という呪縛
「石の上にも三年」
「新卒ですぐ辞めたら、どこにも雇ってもらえない」
「我慢が足りないだけ」
頭の中では、親や先生、そして世間一般が言うであろう言葉がグルグルと回っていました。
確かに、たった1ヶ月で辞めるなんて根性なしだ。どんな理由があったとか、社会は聞いてくれないだろう。
でも、3年間ここに居続けたら私はどうなる?
「あと3年、この生活を続けたら、私は私でいられるだろうか?」
答えはNO。
心が壊れるか、感覚が麻痺して染まりきってしまうかのどちらかだと思いました。どちらにせよ、3年後に「健康な私」がいる未来が全く想像できなかったのです。
そこで私は思いました。
「どうせ嫌な思いをするなら、自分の好きなことで歯を食いしばりたい」
私が退職届を書いた3つの理由

私がこれほどまでに追い詰められたのには、明確な理由がありました。単に「仕事が合わない」という土俵にすら立てなかったのです。
具体的に、私の心を折ったのは以下の3つの出来事でした。
①入社式での鬼のようなセクハラ
希望に胸を膨らませた入社式。そこで待っていたのは、社長による時代錯誤なセクハラの嵐でした。
ここではとても書けないような言葉が、歓迎の言葉の代わりに飛び交う入社式。
顔が引きつる新入社員たち。
その瞬間に、「ここは私がいるべき場所ではない」という強烈な違和感を抱きました。
②OJTの“何も教えない”いじめ
配属された部署での教育担当(OJT)は、私に仕事を教える気が全くありませんでした。
「見て覚えろ」ならまだしも、必要な資料さえ渡されない。質問をしたり、自分なりに見よう見まねで仕事をして失敗すれば「そんなこともわからないの?」と溜息をつかれる。
私はただ、デスクに座っているだけの時間を過ごすことを強いられました。
③わかってて放置する周囲
一番辛かったのは、その状況を周囲が見て見ぬふりをしていたことです。
私が理不尽な扱いを受けていることに気づいた先輩たちは「何もできなくて、ごめんね」と言うだけで、何のフォローもしてくれませんでした。
就活戦争を戦い終えたボロボロの心には、正直すべてクリティカルヒットだったのです。
「やりたいこと」から考える転職術
退職届を出した私は、転職活動を始めるにあたって思考を切り替えました。
「何ができるか(自分のスキル)」ではなく「何がしたいか」を軸にすることにしたのです。新卒の私が持っているスキルなんて、まだまだ社会では役に立たないだろうとも思ったからです。
本来なら、大学時代の就活中にこの思考へと切り替えることが大切だと思うのですが…そう思えなかったお話はまた後日。
なぜライターを選んだのか

数ある職業の中から、私はなぜライターを選んだのか。
振り返れば、私は昔から「書くこと」に救われてきました。
有難いことに、学生時代は作文コンクールなどで賞を取ったこともありました。入試も小論文の配分が多いところを狙って受けて志望校に合格したり…しかし、そんなものもただの過去の栄光。社会に出たら何の役にも立ちません。
だからこそ今の自分では、ライターにはなれない、と思ってました。でも、なりたいなら「今しかない!」「とりあえずチャレンジしてみたい!」とも思えました。
だってまだ新卒1ヶ月目なんだから。
華々しい理由は後付けで良い
「世の中の情報を正しく伝えたい」
「ことばで誰かの心を動かしたい」
ここまでのお話からもわかる通り、そんな立派な志望動機は持っていませんでした。
ただシンプルに「書くことが好きだから」「自分の文章で食べていけるようになってみたい」「とりあえず書くことを仕事にしたい」だけ。
きっかけや理由なんて、そんなもので良いのです。華々しい理由は、仕事を続けていく中で後からついてくるものですから。
「好きなこと」を仕事にする際の注意点

こうして私はライターになりましたが、もちろん、「好きなことを仕事にする=毎日ハッピー」というわけではありません。いろんな壁にぶち当たってきました。
ワーカホリックとの戦い
好きなことだからこそ、際限なくやってしまう罠があります。
気づけば、起きている間はずっと仕事のことを考えている、友達と遊んでいるときもつい仕事の話をしてしまう…なんてことも。
「仕事」と「プライベート」の境界線が曖昧になりがちなので、意識的に休む勇気が必要です。
私はこれが上手くできず、メニエール病を発症し、休職してしまった過去があります。好きがゆえに気を付けないといけないことって、意外とあるんですよ。
「好きなこと」の中に「やりたくないこと」は必ず出てくる
「文章を書くのが好き」と「商業ライターとして書く」は、完全に別物です。当たり前ですが、ライターという仕事は、自分の書きたいことだけを書けるわけではありません。
クライアントの要望を汲み取り、読者のニーズに応える。そこには厳密なルールや納期が存在します。
またライターといっても、執筆だけしていればいいわけではありません。営業、請求書作成、税務処理、苦手なジャンルのリサーチ…。
「好きなこと」を続けるためには、その周りにある「面倒くさいこと」や「やりたくないこと」も引き受ける覚悟が必要です。
ここで「好きなこと」を嫌いになってしまいそうなら、それは「好きなことを仕事にすること」がシンプルに向いていないということです。これは、向き不向きがあることなので、自分を責めることではありません。
記事のまとめ:今の仕事を辞めたいと思っている人へ

もし今、あなたが毎朝お腹を痛めながら会社に行っているなら。
もし、「3年は続けなきゃ」という言葉に縛られて動けなくなっているなら。
これだけは伝えたいです。
「現状から逃げることは、負けではありません。自分を守るための戦略的撤退です」
新卒1ヶ月で辞めた私でも、こうして今、ご飯を食べて笑って生きています。
私は「置かれた場所で咲きなさい」は間違っていると思います。
合わない場所で咲こうと頑張って枯れていくより、場所を変えて咲く努力をするほうが、人生はずっと豊かになるのではないでしょうか。
あなたの人生の主導権は、会社ではなくあなたが持っています。
どうか、自分自身の心を一番大切にしてあげてください。
